ワイン

ソーヴィニヨンブラン2020にまつわるエッセイ

2021年9月2日 木曜日 晴れ

Sauvignon Blanc 2020 のご紹介

202010月に収穫したソーヴィニヨンブラン(100%)。以下、SBと略します。前回2019年ヴィンテージ(SB2019)をお飲みになられた方には、今回の2020年ヴィンテージ(SB2020)との違いに驚かれることかもしれません。

SB2019は、その年の良い気候に恵まれて糖度の高い、いわゆる「完熟した」ブドウを収穫することができ、翌2020年の11月まで1年余の期間をかけてじっくりと発酵が続きました。なかなか発酵が完了せず、途中ではモヤモヤした味わいで、随分心配しました。が、発酵の終わったワインは、品種の特性はむしろ隠れてしまいましたが、「これぞワイン」といったらよいでしょうか、豊潤な味わい深いワインになりました。

一方、今回リリースする SB2020 は、北海道のSBらしい、爽やかな酸味とフレッシュな味わいのワインになっています。

以下、その経緯に関連して、四方山話のようなものをお伝えしたいと思います。

2020年の新春(北海道は凍てつく大地)は、例外的に積雪の少ない冬になりました。その後に、寒い春(いわゆる遅霜)が続きました。結果、当園では幾本ものSBブドウ樹が根元から枯れてしまいました。特に冷気が下りて留まる谷側(当園はなだらかな北向き斜面なのでブドウ垣根の北端側になります)の樹が酷く凍害を受けました。無事に生き残っている樹も、遅霜のおかげで結果母枝からの新芽が凍害を受けて、随分と発芽が遅れました。主となる芽が凍え死んでしまうと、今まで寝ていた副芽がおっとり起き出してきます。

私たちの畑にブドウを植えてから5年目の春にしてようやく、私は初めて、SB(ソーヴィニヨンブラン)という品種はとても寒さに弱いということを思い知らされました。そうして思い返してみると、SBはどうも最初から当園では枯れやすかったのですが、枯れた樹の多くは、実は凍害で死んでいたのですね。5年目の激しい凍害を経験して初めてこの植物の死因を自覚しました(<恥・・>)。お隣のブドウ農家さんのSBは丘の頂上付近に植えられていて、その2020年の春も元気に旺盛に育っているのと見比べると、私たちの北斜面のSBの芽吹きは随分と遅れて始まりました。いわゆる「マイクロ気候」といいますか、ほんの数百メートル離れただけであるものの、地形の微少な差が明確な気候の差を生じ、植物の生長に大きな差を生むことを実感しました(<驚き!>)。このようなお話も、空知ワインアカデミーという勉強会で実地見学させて頂き、教わったことです。(2020年6月に参加しました。貴重な機会を与えていただき、感謝しています。)

さて、そうやって厳しい環境のもと、出遅れたにもかかわらず、当園のSBたちもただで負けてはいませんでした。根性があります。暖かくなってからは随分と伸びに伸び(こうなるとどうにも止まりません。ブドウ栽培では伸び過ぎは良くないとされていますのに・・)、実もいっぱい付けて、秋の実りを迎えることができました。かなり甘く、けれど、やっぱり酸っぱい! 結果、冒頭に戻ります。当ヴィンヤードのSB2020は、北海道のSBらしい、爽やかな酸味とフレッシュな味わいのワインになりました。

以上のような経緯です。このことから、当園のSBは、少なくとも二種の味わいのワインになり得ることがわかります。SB2019のような「まろやか豊潤系」と、今回のSB2020のような「さわやかフレッシュ系」です。

令和2年度の北海道ワインアカデミーを受講して学んだフレッシュな知識で恐縮ですが、校長T先生のテイスティング講義では、一昔前までSBは上記の「まろやか豊潤系」でないとダメと言われていたとのことです。ところが、多くの女性や若い世代がワインを楽しむようになった現今では、昔と対照的に、「さわやかフレッシュ系」SB が大変に好まれていて人気を集めているとのこと。アルコール度数も低め(〜12%程度)がトレンドとなっているとのことでした。

年年歳歳花相似たり・・とありますが、歳歳年々、葡萄美酒SB同じからず・・と言わなければならないのでは、プロの農家として面目ないのではないか? わが身ひとつはもとの身にして・・と、いつの間にか文字通り白頭の翁になってしまったわが身を振り返ります。

しかし、閑話休題。

年々の大きな、そしてまた地形による微少な、「気候変動」にその都度振りまわされている当園としては、余り大きなことは言えません。けれど、ともかく、ソーヴィニヨンブランというワイン葡萄品種は、寒い地方では栽培が難しいものの、なかなかポテンシャルの高い、面白い品種だと思います。去年の凍害で、もう当園では栽培を諦めようかとまで思ったソーヴィニヨンブランでしたが、その秋に出来てきたSB2019の美酒に励まされ、諦めることなく、もっともっと深入り探究してみたいと考えるに至りました。それで、当園では来年100本ほどを新植することを計画して、苗屋さんにSB苗を注文しております。

もしよろしければ、皆さまにも、さまざまなシチュエーションでいろいろなヴィンテージのソーヴィニヨンブランを楽しんで頂けたらと願っております。

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